前回「先行研究を書くときに気を付けること」では、先行研究は「敵と味方」を分けると書きやすいということを紹介しました。今回は、これに引き続き、問題背景の書き方について解説します。
わかりやすい問題背景の書き方
国際誌に書く場合や、読者が幅広い全国学会系の雑誌には特に、ある程度普遍性を考慮した背景を書く必要があります。しかし、そのまえに自分がいくつの要素に対して「背景」を書く必要があるのかを分類して、それを適切に配置するという作業が必要になります。この点について、もう少し見てみましょう。
1つの論文に複数の背景?!
論文を書くときに注意をしてみると、自分が複数の事柄に対して「背景」をかかなければならないということに気づくかもしれません。歴史や地域研究、組織研究であれば、先行研究など自分が取り扱う「問題の背景」と、その地域・組織の紹介や、歴史の紹介などの「場所の背景」。哲学などであれば、自分が扱う「問題の背景」と、それを考察する「視点の背景」などです(紙幅の関係上どちらか一方だけにすることも多いですが)。
たとえば、「3.11以降の福島におけるこころの健康」という題でフィールドワークをする場合を想定してみましょう。題目を見ただけでも、この論文の「序」の部分には、次の2つの要素を書く必要があることがわかります。
・震災後の「こころの健康」に関する国内外の先行研究
・3.11や福島を紹介する文章
また、「デカルトにおける宗教改革の影響」という題であれば、
・デカルト自体に対する先行研究(宗教改革の影響に着目する意義を主張するため)
・デカルトにおける宗教改革の影響自体の先行研究
が必要です。これら二つの「背景」は、上に書いたものがより広い読者とつながるための「大きな問題の背景」あるいは「理論の背景」、そして下に書いたものが具体的に問題を解いていくために必要となった「小さな問題の背景」あるいは「方法の背景」と言い換えることができます。
呼び方自体はなんでもよいのですが、要は「私はこの(多くの読者が共有している)理論の問題点を解決/補完するために、○○に注目して研究を行う」という形をつくることが大切なのです。そのためには、自分で文章や扱う問題の役割を分析し、自分がいくつの問題について背景を書くべきかを知っておく必要があるのです。
問題背景をしっかり書きわけていない論文は採択されにくい!
しかし、確かにこれらの「背景」が書き分けられていない論文でも、世の中には出回っているようです。あつかう問題自体の性質によっては、そういうこともあるでしょう。しかし、特に国際誌など、幅広い読者を見こした雑誌では、そもそもなぜその問題が重要なのか、そしてなぜその問題が○○に注目すると解けるのかということを示さないと、論文は通りにくいといえます。本当は面白くても、面白い論文だとおもってもらえない可能性も高くなってしまいます。
「これは多くのひとにとって重要な問題」ということと、「その問題は○○に注目することで解決することができる」ということを上手に示せている論文は、それ自体読みやすいですし、意義も明確になっています。科学の意味自体をより多くの人に伝える際にも、この視点は重要になるでしょう。
――――――――――――
博士論文の出版について、とりあえず質問してみたい、あるいは論文を見てほしいという方は、お気軽にどうぞ!投稿論文も受け付けています(投稿論文の場合、すでに他所で出したものでも、場合によっては出版することができます)。
※この記事では、今後も人文科学、社会科学、自然科学といった分野に特定せず、アカデミック・ライティング(学術文章)の書き方や博士論文の出版について、有用な情報を発信していきます。
まずは意見だけでもほしい!
という方は、↓のアドレス、またはホームから
shuppan@nihon-kenkyusya.com